800 mを登るのに 実際は どれくらいかかるのか
ネイスミスの法則と実際のタイムはなぜずれるのか。ルートの予想時間の計算方法、見積もりが短くなりがちな理由、慌てないための補正のコツ。
ネイスミスの法則と、今も使われ続ける理由
1892年、スコットランドの登山家ウィリアム・W・ネイスミス(William W. Naismith)は、山を移動するのにかかる時間を1行にまとめました。水平距離5 kmごとに1時間、さらに登り600 mごとに1時間を足すというものです。
12 km、獲得標高800 mのルートなら、水平移動に2時間24分、登りに1時間20分で、合計3時間44分。ほぼすべてのプラットフォームで「予想時間」として表示されているのは、細かな違いはあっても、この数字です。
今も使われているのは、シンプルで透明性があり、おおよその規模感を外さないからです。ただし、あなた自身がどれだけかかるかの予測ではありません。
数字でひとこと
ネイスミスが想定しているのは、体力があり、軽いザックを背負い、良好な道を休憩なしで歩く登山者です。昼食や写真撮影、岩がちな区間がある一般的な週末の山行では、実際の所要時間は予想時間を25〜60%ほど上回るのが普通です。あの3時間44分は、4時間40分にも、6時間近くにもなります。
計算式に含まれていないもの
休憩
40〜60分ネイスミスが測っているのは移動だけです。食事、フリースの着用、地図の確認、仲間を待つ時間、写真撮影は、どの変数にも含まれていません。5時間のルートなら、一つひとつは長く感じなくても、休憩が合計40〜60分になるのはよくあることです。
必ずしも時間が減るとは限らない下り
300 mごとに10分元の計算式は、下りをまるで無料であるかのように無視しています。ラングミュアの補正やその後の換算表では、これを次のように調整しています。緩やかな下りはペースを上げますが、急な下りはペースを落とします。一般的には、緩やかな下り300 mごとに10分を差し引き、膝が主導権を握るような急な下り300 mごとに10分を加えます。
地形
最大で2倍林道の1 kmとガレ場の1 kmは、同じ1 kmではありません。柔らかい雪、ぬかるみ、ゴーロ、木の根は、距離も標高差も変えずに、区間の所要時間を2倍にすることがあります。距離と標高差こそ、計算式が知っている唯一の2つの要素なのです。
体力とザック
体重の20%ネイスミスの基本ペースは、平地を時速5 kmで歩くのに相当し、ザックを背負っていればかなり速いペースです。そして、余分な1 kgごとに代償を払うことになります。体重の20%を超えると、ペースは目に見えて落ちるのです。ソファで計画を立てる人が、いちばん過小評価する変数です。
標高
2,500 m以上標高およそ2,500 mを超えると、完全に高度順応していてもパフォーマンスが落ちます。どのバージョンの計算式もこれを考慮しておらず、Pirineo(ピレネー山脈)やSierra Nevada(シエラ・ネバダ)では、実際に数分単位の差になります。
実践的な補正の仕方
- 01まずネイスミスで計算する。基準値として、距離(km) ÷ 5 + 標高差(m) ÷ 600。単位は時間です。
- 023分の1を足す。普通の日帰り用ザックで、少人数のグループの場合です。5人以上のグループなら半分を足します。グループは平均ではなく、いちばん遅い人のペースで進むからです。
- 03休憩は別に加える。実際の時間をきちんと数えて。ルート1時間につき10分というのが、正直な見積もりです。
- 04さらに20%を足す。雪、ぬかるみ、長いガレ場がある場合や、下りがとても急な場合です。
- 05すでに歩いた人の実際の所要時間と比べる。以上のすべてを、あなたが見積もらなくても織り込んでいる唯一のデータです。
Suviardが2つの時間を表示する理由
各ルートのページには、予想時間と実際の所要時間が並んで表示されます。予想時間は、標高差による補正を加えたネイスミスの法則から算出したもの。実際の所要時間は、トラックを記録した人が、その人の体力と装備で、その日の地形の状態のもとでかかった時間です。
予想時間だけを表示するほうがすっきりしますが、役に立つ度合いはずっと下がります。2つの変数で計算した数字には、その日50 cmの雪が積もっていたことはわからないからです。かといって、実際の所要時間だけでも足りません。それは特定の誰かの時間だからです。2つを合わせると幅がわかり、それこそが、何時に出発するかを決めるのに本当に必要なものです。
ひとつ注意点があります。実際の所要時間は記録された標高差に左右され、そのデータには独自の誤差があります。詳しくはGPSの累積標高が実際より多く出るのはなぜかで解説しています。
まとめ
ネイスミスの法則は、最初の目安としては優秀ですが、帰着時刻の見積もりとしては不十分です。予測値ではなく、幅の下限として扱いましょう。そして、計算の段階で削った余裕は、地形が予想より悪かったときに、そのまま足りなくなる余裕だということを覚えておいてください。山は、楽観的なデータを許してくれません。
データの扱い方について詳しくは、Suviardについてをご覧ください。